第1話

七の月

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七月。

ラジオも、ワイドショーも、 商店街のおじさんも、 みんな同じことを言っていた。

「今月、世界が終わるらしい」

ノストラダムスの大予言。 一九九九年、七の月。 空から恐怖の大王が降ってくる、と。

僕はそれを、これっぽっちも 信じていなかった。

七海「見つけた! こんなとこにいたんだ!」

屋上の鉄扉が乱暴に開いて、 七海が顔を出した。

息を切らして、汗をかいて、 それでも笑っている。

こいつはいつも、世界が終わる前提で 生きているみたいに笑う。

「……まだ授業中だぞ」

七海「どうせ世界終わるんだから、いいじゃん」

ほら、また言った。

七海はフェンスにもたれて、ポケットから一枚の紙を取り出した。

何度も折りたたまれて、 角がやわらかくなっている。

七海「あのさ。世界が終わる前に、 やりたいことリスト作ったんだ」

「……は?」

紙を押しつけられる。 広げると、丸っこい字で七つ、 番号が振ってあった。

一、学校のプールに夜、忍び込む。 二、給水塔のてっぺんに登る。 三、始発まで一晩じゅう起きてる。 四、花火を、火薬がなくなるまで 全部やる。

五、ポケベルで、意味のない数字を 送り合う。 六、誰にも言ってないことを、 一個だけ言う。 七、——

「……七つ目、空欄じゃん」

七海「それはまだ秘密」

七海は紙の端を指でなぞって、 こう言った。

七海「終わるなら、全部やってからがいい。 一個も残したくない」

その横顔が、笑っているのに、 笑っていないように見えた。

僕はそのとき、まだその意味を 考えなかった。

帰り道、僕は七海と並んで歩いた。

商店街のテレビが、夕方のニュースを 流していた。

ブラウン管の中で、コメンテーターが 「科学的根拠はありません」と 苦笑している。

その隣で、おばさんが米を 買いだめしていた。

世界は、終わるかもしれないし、終わらないかもしれない。

誰もが半分だけ信じて、 半分だけ笑っていた。

七海「ねえ、透は信じてる? 世界が終わるの」

「信じてない。どうせ何も起きない」

七海「そっか、透はそうなんだ」

七海は前を向いたまま、小さく言った。

七海「わたしは、ちょっとだけ信じてる」

「なんで」

七海「だって、そのほうが——」

そこで言葉を切って、七海は笑って ごまかした。

「そのほうが、なに。」

七海「ううん、なんでもない!」

そう言って走って先に行ってしまった。

夕焼けの中で、七海の影がやけに 長く伸びていた。

僕は、その続きを聞きそびれた。 あとで何度も思い出すことになる 最初のひとつ。

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